あまりの暑さに、猫も私も、ぎょっとしている。
でも、梅雨明けはしみじみと嬉しい。雨で何もできずにいたから。
数年前の春に、「たなびく」という言葉を使って、詩を書きたいなとぼんやり思い描いたことがある。
その数日後の朝、自転車で近隣の大学の前をかけぬけていると、近所のおばあさんが空を指しながら学校の警備員さんに話しかけているのが聞こえた。
「ほら、あんなにきれい。雲が青空に、すーっと、たなびいてね」
警備員さんは、ちょっと困ったような顔をして「はあ」と言っていた。
私はそのピンクのチョッキのおばあさんのことを、前から「いいな」と思っていた。
いつもひとりでそのあたりでゆっくりと、きれいな落ち葉を拾ったり、花びらを摘んだり、空を見上げたりしていた。
あれからずいぶんがたって、もう彼女のことは見かけなくなってしまったけど、
ふだん使いの言葉から発せられるその素朴な強さを、私もいつでも手にできたらいいなとしずかに思っている。
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