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naitou

「梅雨が近い」


すごくくたびれて帰ってきた週末の夜は、ふだん見ないテレビをつけて、オーケストラの演奏を見るのがわりと効く。

そのうつくしい音色がしずかに夜にしみこんでゆくのと一緒に、

楽器をかまえる時にちょっとだけ光る緊張感、全体をみちびく指揮者のまなざし、流れてゆく演奏者それぞれの表情、ホールの床のあの感じ……

ぼんやりとビールを飲みながら、「このひとがこの楽器に出会って今このステージに立つまでの物語とはなんぞや」とかなんとか思いをはせるのが、けっこう好きだったりする。


もう梅雨なのだろうか。

無数の物語が、ひとびとに降ってゆく。

私は、猫と手をつないで、

「梅雨、やだなー」などとつぶやいている。


今日はこれから鍵盤ハーモニカの練習に行く。

ピアニカ。メロディオン。鍵ハー。どうとでも呼んでくれ。

手に入れたばかりのかわいらしい楽器がうれしくて、思うように鳴らせるかをすでにどきどきしている私は、たとえばステージに立つという非日常が日常になっていっても大切にすごしてゆけるひともしくはそうでないひとの物語を、きっと見ているじっと見てゆく。

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