先日の台風のさなか真夜中、ふとネルが起こしに来ました。
「りえちゃんりえちゃん、こんやは雨をながめながら眠りまちょうよ」
えー眠いんだけどなあーこわいくらい強い大雨だしなあーそれはやだなあー。
ぐずっている私におかまいなく
「ねえそうちまちょう、はやくはやくー」
そう、ネルは私のちいさな作業部屋が大好きなのです。
窓が明るく二面にあって、ほどよく手狭でごちゃごちゃしていて、ところどころがネルの好きそうな仕様にすべて仕上がっていてね。
作業部屋のせまい床に毛布を引き込んで、まるいクッションをふたつ並べて、ネルと頭をくっつけてまるくなって。
真っ暗な夜の窓を、強い雨がごうごうとうちつづけていました。
むくむくのネルの背にほおをつけながらそうして目を閉じていると、
どこか物語の向こう、川のほとりのちいさな小屋の屋根裏部屋に、家出中の女の子と猫が今だけはとすやすや眠りこんでいるかのような、そんな気持ちさえもしてきました。
『生きることを物語に要約してしまうことに逆らって』、とは
学生の頃、何度も大切に読み込んだ、谷川俊太郎さんの詩の一節でしたが
それから何年何十年たっても、私はいつも思います。
私は、はたして物語を生きているんだろうか。
それとも、物語そのものになりたかったんだろうか。
それが、それこそがひとの日々なのだと、私は今は思います。
まるで川底かと思うようなひっきりなしの水音の中で、真っ暗な闇夜を真っ黒な猫と眠り続けました。
きっと朝になれば、天はすこやかに青く晴れているのでしょう。
私は、描きかけのだいじな絵や文章を平気でけちらかしてゆく黒猫と本気で喧嘩をしたり抱きしめてチュウしたりするのでしょう。
眠りの奥にふとよぎるのは、何十年も前のクラスメイトのしぐさや、楽器を持つときの歩きかた、暗転の暗幕に光りすぎな蓄光テープの光の海、つづるノート、つむぐノート。
どれひとつ要約できないものばかりでした。
そんな嵐の夜でした。
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