朝いちで、近所のカラオケボックスにハーモニカの練習に行く。
はたちくらいの頃に買った、ハーモニカひとつポッケに入れて、それなりの騒音の中、思いっきり吹いた。
当時、買った理由は確か、BOOMの「星のラブレター」の前奏のハーモニカを自分で吹いてみたかったんだと思う。
ああ、ヤマハの4穴ミニハーモニカをペンダントにしていた時期もけっこうあったよな。
古着にオーバーオールとか着てな。髪を赤くして生意気でな。
ハーモニカのペンダントは、何回か人にあげたり、なくしたりしていて、今の部屋の壁にぶらさがっているものでもう何代目かわからない。
覚えているのは、はたち当時に大人気劇団のチケットをとりたくてとりたくて、上野のぴあに始発で並んでいた時に、前の女の子が声をかけてきたこと。同じチケットをとろうとしていることがわかった私達はすぐ仲良くなって、何が好きで何を観てきたか、演劇トークに夢中になったこと。無事にチケットを手に入れた私達は、とくに連絡先もかわさずに、電車に乗って、途中の駅で別れたこと。その時、おたがいがその時あげられるものを相手にあげて手を振ったこと。
その頃はまだ、その後ずっとかかわってゆく劇団にすら出会っていない時期の若者だったので、そののちにあんなにも激しく演劇人生をすごすようになるということも、そしてそれを全力でふりきってやめていかねばならない状況に追い込まれる未来がいつか来るということも、まったく夢にも思わずに、笑って彼女にただただ手を振っていた。
あの時、彼女にあげたハーモニカのペンダントは、今頃どうしているだろう。
もう、この世にないと思う。
カラオケボックスで、何の気なしに録音した今日のハーモニカ演奏は、うしろにずっとほかの部屋で歌われていただろう演歌のこぶしがなみなみと入っていて、思わず笑ってしまう始末だった。
かつての私が、小劇場の劇団制作という自分の仕事を、どれだけ大切にして愛してきたことか。
今はそれは、今の私が描きこんでいけばいい。
そしたら、いつかきっと、誰もつらくなくなる。
ハーモニカを吹きながら、そんなことを思っていた。
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