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naitou

「いつかの私に」


明日は、いちにち家にいてネルと一緒にすごそう。

ずっと考えていた書きものをして、たくさんの絵を描こう。

自分のために時間をかたむけよう。


そう思って、さっき夕暮れから、あちこちの外向けの用件を片付けていたら、ちょっとめまいがしてきたので、今はビールに氷いれてしずかに飲んでいます。


テーブルに寝そべった黒猫ネルの背をなぜながら、ぼんやり考えていました。

今はもう、会いたい人もなく帰りたいところもなくて私は、とにかく自分と違うひとの世を生きるのはもうあきらかに「違う」とだけは言えることでした。

しいて言えば、なつかしむのは「昔の、かつての自分たち」のことなのかもしれないけれども、それは、今この現実のそれぞれの姿とは確実に違う。


書き続けることで、私は、容赦なく明日にすすむことができたのだと思っています。


昔、仕事で見たとある映画で、大人気少女漫画家が重病で入院した際に、看護師さんに「あれも読みました、これが好きで」といろいろ話しかけられる中で

「私の仕事は、わたしをたすけてくれない」と内心つぶやく場面がありました。


当時の私は、「本当にそうだ」と思いました。

私の仕事は、わたしをたすけてくれない。

そのセリフをわがことのようにするすると納得してしまえるほどに、当時の私は周囲によってすでにひどく追い詰まっていました。


夕方の空に、まるくなりかけた月が今日はきれいです。

見上げるたびに、ひたひたと光増す月。

今の私の、今描くものたちは、いつかの私を、もうすくえないかもしれない。でも、それとひとしいくらい、心のどこかが悲しくえぐれてしまったひとや、同じ月を見ているひとに、日々そっと、いつしか添ってゆけたらいい。それだけ。

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