のどかな2月末日の午後、日ごろの忙しさに耐えかねて昼すぎまで猫と眠っていました。
いや、起きようとするとネルが「もうちょっと寝ていようようー」というのです。
ぬくぬくとした毛並みで、手をのばしてあくびをしながら。
そんなの、かなわないよね。
台所で軽くアコーディオンの練習をしてみたり、遅い昼ごはんをつくったりして、あいまにめくっていた本に花火大会へと出かける描写があって、ふと思い出す自分の花火にまつわるいくつかを書いておくことにします。
すごく昔、まだ楽しいことばかりだったような頃、劇団のひとたちみなで千葉の先の海のほうに、一泊旅行に出かけたことがあります。
その日が、その海岸の花火大会だってこと、知っててか知らずにかはもう忘れました。
夕食の後、宿のベランダのような物干し台みたいなところに席をつくってもらって、着付けの資格を持っている女優のキシさんが女性陣みなに浴衣を優しく着つけてくれて、準備万端でむかえた花火大会。
もう間近で、ものすごい迫力の花火が次々とあがってゆきます。まばゆい音や光の数々。
みないちいち叫んだり笑ったりして、大はしゃぎで。
「こんなん見たら、告白とかしちゃうよなー」ひとりがしみじみと言って、またみんなで大笑いして。
いや、しあわせだったと思いますよ。
それからそれからいくねんもたって、仕事を全部やめて、ぼんやり暮らしていた夏のことでした。
以前ずっと出版社のバイトで一緒に働いていた子が、私を気遣ってか、飲みに誘ってくれました。
そのひとは、私が長年、全力で演劇制作の仕事で日々をかさねてゆくのを、まるで別の立場からそばで目の当たりにしてきたひとなので、それをすべてやめざるを得ない状況にまで追い込まれた私をそっと心配してくれたのだと思います。
ちょっと飲んでから、きゅうに私が「花火したい」と言い出しました。
そのひとと一緒に、池袋中のスーパーやコンビニをさがしまわって、花火を買いあつめて、夜の公園にむかいました。
ほんとうは話さなきゃいけないことがあるはず。話したいことがあるはず。
でも、もうとにかく力尽きていた私は、もうとにかく黙って、もくもくと夜の公園で花火に火をつけ続けたのでした。
そしてそのひとは、ずっと黙って一緒に花火の灯を見ていてくれました。
そんな夜もありました。
私が猫の絵を描き始めたのは、そんな夏のとある日のことでした。
今現在の私と作品たちを、応援してくださっているたくさんのかたがたに、心より感謝しています。
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